
災害時、トイレは「後回し」にできない問題です
阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震——過去の大規模災害では、いずれもトイレが深刻な課題となりました。断水や下水道の損傷により、水洗トイレが使えなくなる一方、仮設トイレの設置には平均して1週間程度かかるといわれています。この「空白の期間」をどう乗り切るかが、避難生活の質を大きく左右します。
避難者数に対してトイレの数が不足すると、限られたトイレに使用が集中し、流せない状態のまま衛生環境が悪化していきます。感染症のリスクが高まるだけでなく、「トイレを我慢する」ことによる脱水症状や、後述するエコノミークラス症候群のリスクも高まります。
国の指針も「トイレを最優先に」という方向へ
トイレの重要性は、行政の指針にも表れています。内閣府は2024年12月、能登半島地震での経験を踏まえて避難所トイレに関する指針を改定しました。国際的な人道支援の基準である「スフィア基準」を採用し、トイレの設置数の目安を「発生当初は避難者50人に1基」、その後は「20人に1基」に引き上げることを推奨しています。また、男性用と女性用のトイレの比率についても「1対3」を目安とすることが示されました。
背景には、「TKB48」という考え方があります。これは、トイレ(Toilet)・キッチン(Kitchen)・ベッド(Bed)を、災害発生から48時間以内に整備すべきだという避難所運営の目標です。新潟大学の榛沢和彦医師らが提唱しており、避難所の環境整備が遅れるほど、体調不良や災害関連死のリスクが高まることが指摘されています。実際に、避難所で深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群の原因)の陽性率が最大30%に達した事例も報告されており、「トイレを我慢しない環境」を早期に整えることが、命を守ることに直結しています。ちなみに、トイレの備蓄基準ひとつをとっても、欧米では「20人に1基以上」が標準とされる一方、日本はまだそこまで届いていないのが実情です。
備えるべき非常用トイレの数の目安
水道の復旧までには、災害の規模によって大きな差があります。過去の事例では、阪神・淡路大震災で約3か月、東日本大震災で約3週間、熊本地震で約1週間を要しました。行政の支援が届くまでの期間を考えると、ご家庭でも最低7日分の非常用トイレを備蓄しておくことをおすすめします。
必要な数の目安は、次のように計算できます。成人の平均的な排尿回数は1日5~7回とされているため、1人分で1日あたり5~7回、7日分では35回分前後が目安になります。ご家族の人数に応じて、2人家族なら70回分、4人家族なら140回分程度を基準に備えておくと安心です。便リーナや簡易トイレR-39のような、回数分をまとめて備蓄できる商品を活用すると準備しやすくなります。


非常用トイレがない場合の応急処置
非常用トイレの備蓄が間に合わない場合は、新聞紙と大きめのポリ袋で簡易トイレを作ることもできます。ポリ袋を便器にかぶせて便座で固定し、しわを作るように丸めた新聞紙を底に敷きます。さらに、縦に細く裂いた新聞紙を加えると、吸水性を補うことができます。
猫砂やペットシーツ、おがくずなどを代用品として使う方法も見聞きしますが、それぞれ注意点があります。猫砂は必要量が多くなりやすくゴミが増える点で推奨されておらず、ペットシーツは吸水力が低いため補助的な役割にとどまります。おがくずには消臭効果がありますが、防災用に開発された専用の凝固剤・脱臭剤の方が、性能面では優れています。
「安心して用を足せる環境」も備えの一部です
見落とされがちですが、排泄という行為は、心身がリラックスした状態でなければスムーズに行えません。強いストレスや不安を感じている状態では、副交感神経がうまく働かず、排便が困難になることがあります。プライバシーが確保されたテント型トイレなど、周囲の目を気にせず落ち着ける環境を用意することも、トイレ問題への備えの重要な一部です。

まとめ
トイレの問題は、災害時の「命に関わる問題」として、国の指針でも整備の優先度が引き上げられています。ご家庭での備蓄はもちろん、地域や職場でトイレの備えがどうなっているかを、この機会に確認してみてはいかがでしょうか。
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避難所生活で命を守るための備えについては「備えmemo #9 避難所でいのちを守るのは「〇〇〇」」もあわせてご覧ください。
